オデットとともに



  スワンからオデットへ

  私が長岡鉄男氏のことを知ったのは電波科学を読んだのが最初だろう。そのころ
私はテレビの白黒映像信号をオープンデッキに録音して再生できるかという実験を行い
失敗していた。電波科学には録画方式の技術解説があり信号の帯域をみると可能では?
と思えたからだった。

  オーディオが大好きだった私は連載されていた長岡鉄男のオーディオジャーナルをそのとき
から愛読することになった。記事はいまでもコピーして保存してある。

  さて氏がスワンを発表したのは昭和61年のことである。平成4年にはスーパースワンに進化
する。

  一方SITアンプであるヤマハB1が世に出たのは昭和49年。B3が出たのは昭和53年の
ことである。少々世に出るのが早すぎたきらいがある。何故かというとスーパースワンにベスト
マッチなのはSITアンプだろうと私は思うからである。

  スペースの関係上スーパースワンが作れない私は省スペース型スワンであるオデットを
開発しておいた(コードネーム空気ボウフラ)。

  2008年に登場したオデットをSITなどのFETアンプでこれから鳴らしてゆこうと思う。






  これは空気ボウフラを鳴らしていたころの低音がちょうどいいと思えた速度特性を示し
ている。裸ユニットでの特性だがFE108Sといえどもこれは少々苦しいかもしれない。

  場合によっては電流正帰還も必要とされるかもしれない。


  Sansui AU-α607MOS Premium  






  回路的には東芝の
K405とJ115を用いた純コンプリメンタリーSEPP出力段で構成した
バランス
アンプになっている。だから電流正帰還は掛けられない。

  これが意外と素晴らしかった。低音ははずむように出て量感があり、高域はMOS
らしさがある。実測データからするとダンピングファクターのカタログ値150は少々疑問。

  すでにB3、スケルトン1、スケルトン2の音は確認済みである。最高から始めてだんだん
降りてゆくのがいいのか、逆がいいのか、まあ先は長いので適当がいいかも。


  空気ボウフラはいい線をいっていた。器楽では最強のシステムといっていいかもしれない。
ただボーカルでは音が澄んでいないことがわかっていた。Aria the naturalのアルバムをかけて
みてこれは駄目だと思い、次のプロジェクト オデットに進んだのである。それまではバッフルを交
換可能にしようかなどと考えていたのだが、もう迷うことなく接着にした。

  MFB−12Fはダブルバスレフの方に活路を見いだせれば良いだろう。


  この石といえば?



有名なのはLo−D HMA-9500IIですね。他にアキュフェーズE303、P260もありました。
P266
はモールドタイプの石です。

  いろいろ研究してみるとこの石は単に古いというだけでなく、特異なMOS−FETである
と結論づけられました。

  伝達特性

  単段アンプ


 どうです。変わっているでしょう。V−FETに次いで直線性が良い素子です。アンプにすると
底知れぬ良さがでるという石です。


  LM3886

  長期間これを聴いてゆくことにした。すぐやめるのはもったいない気がする。一聴してわかるの
はさわやかな高域と力強い低域である。

  私も人生の初期は真空管だったが、その後長い間バイポーラーのお世話になり別段不満も
なかったのである。FETアンプを手にしたのは31歳のころと思う。

  小学生のときソニーのラジオ通称ICイレブンを買って毎日聴いていた。自転車に積んで山に登
って聴いたこともある。そのとき全く雑音のない音楽に驚いた記憶がある。トランジスタには雑音が
つきものと思い込んでいたからだ。中を開けるとトランス出力のプッシュプルトランジスタを見ること
ができた。

  その後使うことになったアンプはすべてバイポーラ出力段だった。最初のアンプから純コンプリ
メンタリーSEPPで、3台目からDCアンプになった。いまでもカーステレオはおそらくバイポーラだ
と思う。

  さてこの高域はFETアンプと比較するとなかなか面白い。FETアンプでは電気の霧のようなの
がぱっと広がる感じがするのだがそれがない。2次歪が少ないためと思われる。そのかわり5次、
7次歪が出力に応じて出てくるので変わった響きが音色として乗る。

  音場感を味わうという用途には向いていない。素直さと、音色の響きと力強い低音を楽しむため
の機械である。


  おおまかな構造




  別々に作って接着する。ヘッドはスーパースワンとコンパチブル。


FE108Super(平成4年発売限定ユニット)



  今ならFE108EΣが入手可能だ。マグネットがやや小さくQoが0.3だが電流正帰還を併用
すればなんとかなるだろう。予備用に2個入手しておきたい。


このような資料を見つけた。

Λ-CON(ラムダコンデンサー)
銅蒸着ポリエステルフィルム、端子接合は
同質金属を使用、入り口から出口まで同一
金属とすることで抵抗損失を減少させ、電流
ロスを改善
0.22μF ¥720
0.33μF ¥775
0.47μF ¥800
0.68μF ¥840
1.0μF ¥1,020


Hi-ΛCON(ハイラムダコンデンサー)
銅箔フィルムコンデンサー <これは銅蒸着じゃなくて銅箔>
0.22μF ¥2,650
0.47μF ¥3,250
0.68μF ¥3,600
1.0μF ¥4,450
2.0μF ¥6,600
音の厚み自然感が特徴、透明度も抜群
電極に銅箔、誘電体にポリエステルフィルムを使用
抵抗損失が少なく、素子の振動も発生しにくい。
原音を完璧に再現




  とすると東一のT−Cap CUはハイラムダの現代版ということになる。スケルトン1の
いい音の理由かもしれない。


  スケルトン1を試したあとでスケルトン5(K79+J48)にする。

  スケルトン1はT−Cap CUが入っていて電流正帰還もかかっているという
つわものである。これにあっさり勝ってしまった。



  高域はV−FETに極めて近い素直なもの。低域はMOS−FETをしのぐ。聴き進んで
ゆくと音像が雄大なのがわかる。

  V-FET(driver) + MOS-FET(final) = MOS-FET(driver) + V-FET(final)

  というのが回路の錬金術だ。



  そういえばこんなデータもあったっけ。非対称アンプ「菱垣」の単段アンプだ。
圧倒的な実力だが、これをワンチップで造ればアンプの新時代が来そう。NIGBT
とでも呼べばいいかもしれない。


2000年の市販アンプの状況

  型番 価格 定格出力 重量 素子  
VICTOR AX-S313 34000 60W+60W(8Ω、20Hz〜20kHz、歪率0.08%)
7.2kg BP アドバンストスーパーA
PIONEER A-D3 39000 45W+45W(20Hz〜20kHz、0.1%、8Ω)
EIAJ
5.9kg
MOS ダイレクトエナジーMOS
DENON PMA-390IV N 39800 50W+50W(8Ω、20Hz〜20kHz、T.H.D.0.1%) 7.0kg BP  
YAMAHA AX-396 32000 (20Hz 〜20kHz ):70W +70W (6 Ω・歪0.038 %)
8.7kg BP リニアダンピングサーキット
SONY TA-FB720R 38000 100W+100W(EIAJ、4Ω) 8.6kg MOS
TECHNICS SU-V500MKII 32800 45W+45W(8Ω,ElAJ) 6.0kg BP ニュークラスA回路
ONKYO A-924(N) 40000 40W+40W(20〜20kHz、8Ω、0.08%) 6.7kg BP 広帯域化と低NFB(負帰還)の基本設計
KENWOOD KAF-3030R-S 38000 50W+50W(40Hz〜20kHz、0.06%、8Ω) 7.8kg BP 夢の素子Linear TRAIT
高品質3段差動アンプ
MARANZ PM6100SA 39800 50W+50W/8Ω(20〜20kHz) 7.5kg BP 電流帰還
PIONEER A-D1 26800 35+35W/8Ω 4.7kg MOS  



2008年の状況

  型番 価格 定格出力 重量 素子  
VICTOR AX-D311 53550 110W/ch(6Ω、1kHz、0.8%THD) 6.6kg   AVデジタルアンプ
PIONEER A-A6 80000 45 W+45 W(20 Hz〜20 kHz、T.H.D. 0.2%、8 Ω) 10.5kg
   
DENON PMA-390AE 45150 50W+50W(8Ω、20Hz〜20kHz、T.H.D.0.1%) 7.1kg BP ショットキバリア
YAMAHA A-S700 73500 (20Hz 〜20kHz ):90W +90W (8Ω・歪0.019 %) 10.9kg BP 伝統のデザイン
SONY TA-FE570 28,140 100W+100W(EIAJ、4Ω) 5.4kg  
トライオード Future2005  81900  100W+100W(8Ω)  約9kg  サンケンSAP15
ONKYO A-973(S) 52500 40W+40W(8Ω 1kHz、0.5%以下THD、2ch駆動) 7.3kg   デジタルアンプ
CEC AMP3300R 57,750 64W+64W(8Ω) 9・2kg   LEFサーキット
MARANZ PM6001 47250 50W+50W/8Ω(20〜20kHz) 8.6kg BP    


  いろいろあってテクニクスとケンウッドが抜けてしまった。フルラインアップを維持している
メーカーはわずかである。

  家ではリファレンスはスケルトン5と決まったが、市販アンプの方が良かったりすることもよくある
ことだ。何か入手しておこうか。





  久しく買ってなかったが買ってみた。メーカーはあまり健在とは言いがたいが、お金を出せば
まだいろいろとできることを教えてくれる。高級カートリッジやSITアンプもあるのだから。要となる
技術は生き残ってほしいものだ。

  長岡鉄男氏の未発表作再現シリーズはどうやら今月で終了のようだ。

  開発中のダブルバスレフ梟(ふくろう)


  平日はオデットを聴き、週末は梟を出してきて聴く。ワイドレンジでありながら
透明感と力感がある。

  結構素晴らしい。


  スケルトン5でしばらく楽しんでいたが或る日LPをかけて低音出すぎなことに
気がついた。電磁制動が弱いか。

  スケルトン3に変更した。これは制動力がある。やっぱりD−NFBは凄いや。

  スケルトン6が完成するまでこれでいこう。


  或る日DVDレコーダーの音を聴いていて、HA-5Σをプリアンプにして鳴らしてみよう
と思いたった。スケルトン3+オデットでは発振したのでスケルトン1にした。安定度の高いス
ケルトン1があるといろいろと重宝する。

  プリとしての可能性はとてもあると思えるのでuΣをぎっしりいれたプリアンプを将来的に
は作ってみようという構想が生まれる。uΣはK無線の在庫セールで確保しておいたのだ。


  スケルトン6の製作が難渋しているのでSIT完全対称アンプの出力端子を変更してオデット
で鳴らせるようにした。

  まあこの音で何の不満があるかといえば何もないのであって、スケルトン6が永遠に完成しな
くても痛痒は感じないのだ。


  J18はスケルトン7まで作るとほぼ使い切るが、K79を50個以上購入してあるので当分は
錬金術で凌ぐことができるだろう。

  たまたま非対称アンプ菱垣(錬金術アンプ)を鳴らしてみたがスケールはSEPPに劣るが、
夢のような音がしている。


  SITとともに

  家ではSITアンプとSITヘッドホンアンプ、出先ではSITヘッドホンアンプというふうにSIT
で埋め尽くされた生活になっている。このSITヘッドホンアンプがなんとも凄い。従来のもの
から5段階くらい音が良くなっている印象だ。予想もしていなかったことだ。このヘッドホンアンプ
は電源を±8.5Vにデチューンしたタイプも実験したが良くなかったので±27Vで行くことにする。
だから少々危険なので安定なものが作れる人以外は作らないでくださいね。

  カーステレオ(パイオニア製)を聴くたびにバイポーラも捨てたものではないと思わされる。
ちゃんといろんな音が聴こえているし素直な感じがする。バイポーラの方が一般的に高域の歪が
少ないのが影響しているのだろうか。

  散歩用のiPodはデジアンになっていると思う。一応MOSの進化形だ。


  パスコンのテスト

  


  最近AUDYN CAP MKP QSを買ってみるとV2Aにそっくりになっていた(よく見ると
違っているが)。

  


  また最近はVxに良く似たフィルムコン(Rubycon)も安く買える。

  これらの音質をオデットとスケルトン3を使って比べてみよう。



  結果

  1 一番良かったのはV2A。音がきれいで立体的で深みがある。

  2 QSはRubyconと同程度。

  3 VxはRubyconよりやや先鋭である。



  VIIIも調べた。

 4 ケース入りなのでかちっとして音像がしまっている感じがした。uΣも同じ。


  昔よく見られた黄色いフィルムコン。右は最近のもの。



  5 意外にもすっきりしてさわやかな感じを受ける。右はRubyconよりは少し落ちる。


  積層セラミックと安いポリエステルフィルムも調べた。



  6 積層セラミックは悪くはない。Rubyconとくらべあまり差がなかった。右は質が
    落ちる感じ。この二つは鉄足。


  廉価なマイラーとメタライズドフィルムコン。



  7 右の方が硬質な感じがする。この2つも鉄足。

  8 パスコンなしとRubyconも比べてみた。なしだと仕上げがなされていない質感に
    なる。

  これらの結果はいうまでもなく暫定的なもので、実際に組み込んで使ってみて良ければ
OKだし我慢できなければNGとすればよいだけの話だ。ただそこまでだと相当時間がかかる
のであらかじめテストして、よくなさそうなものを買い込むのを防ぐのである。



  ヤマハB3にして聴いている。SITアンプの味は全部感じられるうえにパワフルだ。
B1aよりも小振りなアンプだがオデットにはちょうど良い。幸運なことにまだまだ正常に
動作しているようだ。このアンプを寿命まで聴いてやることが私に与えられた使命だと思う。

  Aria the naturalだけでなく今日はNightfly(ドナルドフェイゲン)、モザイク(ジプシー
キングズ)も聴いてみたが美しく切れ味するどい斬新な響きだ。全く以ってオーディオの
秘儀をこの世に実現しているかのように思える。まあそういう妄想には深入りせず、あとは
ただこれを私の日常に埋没させれば良いだけだ。


(終わり)