新 仮想オペアンプシリーズ

  仮想オペアンプシリーズは1996年にNifty serveのはんだごて倶楽部に書いたものですが、
今回若干の新回路を加え、ディスクリートパワーモジュール方式で組んでみます。

  前回は電圧増幅段の音質の違いを調べるために企画されたプロジェクトですが、結論としては差はあるが
どれもまあ合格ということだったと思います。

  しかし6年の研究の末でた、アンプの音質に関する予想は、

  対称合成されようがされまいが、残ったわずかの歪みは音のくせとしてでてくる。それはNFBでは矯正不可能。

  というきびしいものなので、そのへんがどうか検討してゆきたいと思います。



  前回の音質評価

No.0 4558   ここちよい音。クールでおとなしい。
No.1 電流帰還型  
 オペアンプとの比較では,透明度,音場感ですぐれているようです.金田式と
くらべても,透明度やさわやかさではひけを取りません.ただあとで述べるように
,力感とかぴりっとしたところがないようです.
No.2 金田式  
 音をだしてみますと,やはり音のつやとか,躍動感にちがいがあります.一聴
して,聴き惚れるような部分があります.特に電圧増幅段を定電圧化しているので
いままでと違う感じがします.(静かなのか付帯音があるのかよくわからない.)
No.3 窪田式  
 音は,端正,ハイスピ−ドといいましょうか.安心して聴ける音です.
平凡すぎてがっくりということはありません.
No.4 フォールディッド カスコード    
No.5 オールFET   どこにもオリジナリティなどないですが,現在入手しやすい部品でできています.
音は今のところ一番気にいっています.
No.6 オペアンプ改良型  
 これが意外といいので驚きました.きれいな音です
No.7 V−FET使用   MOS−FETの出力段が電圧増幅段の音を忠実にだす
のでしょうか,とても明るく,繊細な音がします.木管の音が音速で風の
ように吹き抜けていきます.(ブラ−ムスSYMPHONY NO.2. 3rd MOV.)





  前回の回路は、



  このようなものだったので、要するにフラットアンプの音質+MOS−FET無帰還アンプ
の音を調べていたことになります。







  今回はオーバーオールのNFBを入れますから、裸ゲインの大きさによって出力インピーダンスが
ころころ変わるので音質の違いも大きくなるはずです。

  


  ODNF電圧増幅段もつくってみます。

 

  上側は主アンプで、ゲインを少なめに設計します。下側は定電流負荷兼歪み打ち消しアンプです。
出力を分圧し入力と同じにして、差信号だけ出力します。ゲインが大きいほど周波数特性、位相特性が
伸びるので、大きめに設計します。


出力インピーダンス

  測定日 V1(30kΩ) V2(8Ω) Zo (@1kHz) 音質
No.0 4588 2003.10 0.247 0.243 0.13Ω  
No.1  電流帰還式   0.226 0.213 312/(639-1.8)=0.48  
No.2  金田式類似          
No.3  窪田式   0.472 0.455 408/(1365-3.7)=0.3  
No.4 フォールッデッド カスコード   0.443 0.421 528/(1263-3.5)=0.41  
No.5 オールFET   0.500 0.490 240/(1470-4)=0.16  
No.6  オペアンプ改良型          
No.7  V−FET使用   0.352 0.331 504/(993-2.8)=0.5  
           
           
           
           


   以上の結果より裸ゲインは、

     オペアンプ>オールFET>窪田式>電流帰還式>フォールデッド カスコード>V−FET使用

  と推定されます。そしてほぼこの順番で音がきついです。

  フォールデッドカスコードはいやにクリアーな音ですし、V−FET使用は歪み感がないうえに音が柔らかい
です。電流帰還式はゲインがとりにくいようです。

  どの回路も個性的な音ですが、個別に位相補正が可能なのでもうすこしいじってまとまりのある音に
してみたいと思います。


  オペアンプでもなんとか鳴るように、5Pの進相補正をしてみました。

  これはなかなかいいですね。細かい音がすごく良く出ます。直感的にパワーオペアンプより優れていると
感じました。ICをチャンネルに一個ずつ使って自由創作アンプにしようかとも考えました。

  ±20V電源をフルに使いたいのでやっぱり没です。


  今日ふと思いついたのはシリコンで上げて、ゲルマで下げるという回路です。こうするとダイオードの
かさ上げなしでバイアス電圧が作れるというものです。

  こういったものを試した人はまさか誰もいないでしょう(それほどマイナーな試み)。


  フォールデッドカスコードを聴いていると、やはりなんとなく低音のしまりが不足していると感じます。
テレビもつけながら鳴らすといういいかげんな試聴ですが、これで結構違いがわかるのです。

  耳の基準がつねにテレビ音声を参照しながら校正されていますから、オーディオ同士の1対1比較
よりも、絶対評価に近い形になります。

  Zo=0.4Ωですから、そんなに制動がゆるいわけでもないのですが。


  前回終段無帰還にした理由は、オーバーオールだと発振したからでした。今回も、自己流で
2回組んで発振、その後NS社のホームページで得た知識で組み成功しました。要するに、パワー
オペアンプやオペアンプ+パワー段は最もクリティカルな部類なので、自己流だとうまくゆかない
のです。

  (自己流というのは、回路図に近いような部品配置で組むという意味です。)

  全段カスコード3段ダーリントン回路も何度挑戦しても発振しましたが、この方法でなんとかなり
そうな予感がします。


   オペアンプ改良型は、とってもクールで、クールさだけはV−FETに近いかなと思います。
オペアンプそのものより良いと思いますが、音が揃っているというか音像の林立感でいうと、
高さが比較的同じように見えるのです。

  次にオールFETにすると、音像の林立感が大小さまざまで一つ一つの質感まで違います
し、エレガントで高級感があります。

  さすが金田氏の耳と技能で選ばれたパーツは、グッドではないでしょうか。


  ハーフサイズシリーズ



   無帰還




No.1 電流帰還型


  聴いてみて作り直す必要があるのは電流帰還型だったので、若干の手直しをしました。

  このくらいでまあまあのゲインになります。



  ディズニーランドを回るように順番に聴きました。曲はボストンのデビューアルバム、スピーカーは
FF85Kバスレフ、プリはオールFETです。

  V−FET使用

   1,2位はやはりこれかオールFETなのだが、ある意味ではこれは別格というか、別世界
のような音がする。ご存知のように2次歪み主体のJ−FETを差動にすると歪みは極めて少なくなり、
V−FETのドレインに強烈な負荷をドライブさせると、特性は直線化する。

  これに若干のオーバーオールNFBがかかっており、とにかく音が良いのである。

  電流帰還型

  状況によりものすごく透明な感じもするが、オールバイポーラのほぼ直結2段のアンプは、
やはりもともとの歪が多いため音がきつく感じる。まあ電解コンデンサーやセラミックコンデンサー
を入れているので、そのせいかもしれないが。

  フォールデッドカスコード

   一段増幅なので、音数の少ない部分ではものすごく透明、NFBが少なく特性が悪い
ので、やかましい部分になると音が汚くなる。


参考  2次関数特性の対称合成ではコンプリが完璧ならアイドリングの4倍まで歪みゼロという
計算例がありました(はんだごて倶楽部)。

  オールFET

   風格、音の厚みもありクールでシャープ。評価はとてもよい。


  オペアンプ改良型

  NFBたっぷりなので、全体的に聴きやすい。がこういうのはハイフィデリティではないだろう。

  窪田式

  このなかで比較するので、ちょっと音が硬くやせているかも。まあ、これらは全部かたくやせている
といっても当たりなのだが(半導体アンプなので)。


   ひとまわりしてきたところで、6L6GC三結にしてみました。このスピーカーでは、要するに
低音は解像度がなく、高域に雑味ありということで芳しくありません。

  直ちに、ユーロ2ウェイにつなぎ替えて、アメリンクを聴いてみました。

  このストレスのない、やさしい高域は帯域電流負帰還といえども、到達不可能であるとわかりました。

  このあとウェザーリポートも聴きましたが、バランスがよくきめこまやかで半導体より楽しいことも
よくわかりました。


  しばらくショックを受けていましたが、良く考えてみるとユーロスピーカー+帯域電流負帰還ではどう
かなと思い、K1529のやつで聴いてみました。

  低域が出すぎですが、それはともかく高域は似たようなやわらかさが感じられます。しかしこれだと
音が多すぎなのか、すっきり透明でないのですね。真空管アンプのように音が整理されていない印象
です。

  情報量過多アンプ+フルレンジは透明で(上手にならせば)柔らかい音がでて、位相特性もよく、これはこれで
最高のもの(日本でしか作れない音)です。

  ユーロ+真空管はきめがこまかく、ストレス感がなく、陰影があり、リアルさもでてきます。こ、これは
ヨーロッパの音でしょう。

  イタリア、ギリシャのアマチュアの人でフォステクスにはまっている人を見受けますが、ヨーロッパには
ない音にやはり衝撃をうけているものと思われます。


  NFBをかけて歪みが少なくなるということの意味は、こう考えるといいと思います。

  素子の非直線性に基づいて生ずる歪みは、動作点付近では小さく、動作点を離れるにしたがって
急激に大きくなる。NFBを深くかけるとクリップポイントの近くまで歪みを小さくすることができる。

  これは運用時で考えると、その行為はボリュームを上げても歪み感がそれほど感じられないという結末を
招いたということになります。

  バイポーラアンプとV−FETアンプがともに歪み率0.1%以下という性能であったとすると、それの意味する
ところは、単にボリュームを上げていっても歪みは増大しないということのみだと解釈するのが無難です。

  どちらも歪みが聴こえないはずだから、同じ音がするに違いないと考えるのは先走りすぎなわけです。

  


   周波数特性が同じ、歪み率が同じ、ダンピングファクターも同じ、発振などの悪い現象もない場合、
同じ音にしか聴こえないと主張する人々がかなりいますが、それはいくつかの大事なポイントを見落として
いるからでしょう。例えば、

  その1 ある種のスピーカーでは、NFBをかける前のそのアンプ本来の音まで提示してくる。

   ふーむ、なかなか奇妙な説ですが、あながちそうでないとは言い切れません。


  その2 抵抗負荷で保障された低歪み率が、音圧変換時まで保障されているわけではない。

   ちょっと考えただけでも、電流歪み、ヒステリシス歪み、磁気歪み、弾性歪み、分割振動歪み
などがありますから、本当は非直線歪みを取り除いたとしてもそのほかの微小な?歪みだらけであると
考えられます。

   これらの歪みの中にあって、アンプ自体の音質差が聴こえるということは、その1が成り立っている
 と考えざるをえないわけです。

  それは多分、NFBをかける前に含んでいる歪み、クロスオーバー歪み、スイッチング歪み、キャリア
蓄積歪み、可聴域外の周波数特性、微小信号時の歪みまたは干渉などがアンプの本来の音を構成する
ものであり、技術的に簡単には克服できないからでしょう。

  一番現実的なのはそういう欠点の少ない素子でアンプを組んでみることです。



 

        Zo (@1kHz)                           解説
No.0 4588       0.13Ω NFB量はNo.6と同じと考えられるので、両者に音質に違いがあるとすれば、初段の性能の違いと考えられる。良く知られているようにIC内部に作られたPNP素子の性能(とくにhFE)はあまり良くは無い。
No.1  電流帰還式       0.48 この方式は帰還路の時定数がひとつ少なくなるので、広帯域のアンプが簡単に作れるのがメリットである。ということはHi-ftの素子を使わなければあまり意味がないということかもしれない。
 回路はバイポーラ素子のエミッタ接地2段に等しいので、NFBをかけなければ高歪みとなる。
No.2  金田式類似          
No.3  窪田式       0.3 オールFETにしたため素性が良いかも。争点はなんといっても窪田式抵抗バイアスがいいのか悪いのか
どうなのかというところであるが、結論が出たという話は無い。
No.4 フォールッデッド カスコード       0.41 これはNFBが少なくて、直線性が悪くなっている典型例。NFBを確保できればいい音質が期待できる。
No.5 オールFET       0.16 FETそのものの特性、対称合成の仕方などから、NFBをかける以前の問題が少ない部類のアンプ。聴いてみるとくせが少なく、情報量が多いと感じる。
No.6  オペアンプ改良型         初段まわりを高性能化したオペアンプと考えられる。音はダイナミックさが若干失われるが、綺麗な音では
ある。
No.7  V−FET使用       0.5 V−FETはMOS−FETに含まれるわずかな負荷伝達特性の悪さを持たない素子であるため、聴感上きわだった特徴をみせる。
  この場合もくせが少なく、情報の損失が少ないという印象をもった。ダンピングファクターだけの問題ならバイポーラアンプのZoを電流負帰還でを上げて似た音になるはずだが、そうはならない。
           
           
           
           





アンプの音質にかかわるファクターのいくつかについて

(1)能動素子

   このホームページで終始追求してきたのは、能動素子の違いによる音質の違いはどうなのだろうか
という話で、結論としてはそれは大きいということです。

  一般的には、どれも適切な設計により実用的な製品になりますから、製造コストとの兼ね合いで決めれば
よいでしょう。が、趣味の世界では無歪み素子による無歪みアンプを目指してゆくのもありです。また趣味の
世界では真空管アンプが広く支持されているのも理由ありです。
  

(2)回路

  回路によりいろいろ特性が変わり、それにより得られる音質には法則性があります。そのところを会得して
いれば、回路選択により望みどうりの音質に仕上げることも可能になります。詳しくはこのホームページのどこか
にすこしずつ書いてあるので精読をお勧めします。


(3)帰還方式

  NFBを安定にかけることは一番大切な基礎ですが、それにより今ある不完全な素子を用いていても特性的には
ほぼ満足できるアンプが実現できるわけです。

  工夫により、準高周波領域での安定性、低歪み化が達成できるようです。また最初からそのへんの領域は使わない
という選択もありです。

  特殊な帰還としては、電流正帰還、帯域電流負帰還、センサーを用いたMFBなどあり、可聴域でのはっきりした
効果をもたらします。

(4)高調波歪み

  一般的には、帰還技術で問題ないレベルに低減できますが、特殊な方法を用いてこれらを信号に付加すること
ができます。この効果について慣れ親しんでおくと、NFBをかける前にあったこういった歪みがNFB後も聴こえる
ようになります(嘘)。

(5)受動素子(ワイヤーも含む)
 
 受動素子も完全なものは無い状況なので、各種パーツのキャラクターを利用しつつ設計することになります。
これまた結果は多彩で不定のことが多く、いちいち書いていたら一般性を失うでしょう。


(6)動作点

  これは確かにgm、クリップの度合い、クロスオーバーなどに影響しますから、音が変わるのは事実ですが、
その度合いはおのずから限定されます。例えばJ74がJ72の領域の音を出すのは不可能です。


(7)超高域での特性ピーク

   きわめて安定か、わずかに不安定かで音の立ち上がりが大きくかわってきます。これはもともと鈍い音しか
でないアンプを鮮度の高いアンプに変身させる技法として応用できます。


No.9 サトリアンプ




  
サトリアンプの無歪み性

  を見ていただければわかるように、サトリアンプは理論的には無歪みです。

  少し期待はしていましたが、清流のような音です。飛びぬけて歪み感がありません。
音と音のあいだに入ってゆけそうです。

  部屋のコーナーにいると、音がシャワーのように降ってきます。